「白練(しろねり)」では、友禅染めの技法の一つであるろうけつ染めを主にした染色法を用いてタペストリーや洋服などさまざまな商品を作っています。
以前は着物の工房で働いていたんですが、着物の技法や染めのよさをもっと多くの人に知ってもらいたいと思って、独立しました。
8年間着物を染める仕事をしていたんですが、日本の着物の技術は本当にすごいんです。たとえば染めのバリエーションというのは日本がぶっちぎりに多くて、百種類以上もある。
でも、着物は高価なものが多くて、なかなか普通の人が触れたり、楽しんだりできないのでそういうことはあまり知られていない。だから、着物の技法をいろいろなものに生かしてもっと多くの人に知ってもらいたいと思ったんです。
染めの最大の特徴は裏に向けても色が通っていることなんですが、この特徴を洋服などにも生かせたらなと考えています。まだ手探り状態なんですけど、普通の服地ではできないことをしたい。
着物というのは、1枚の布を巻きつけているだけですが、デザインがらせん状になっていて、柄の配置の妙で、奥行きや存在感を出している。
柄が動きと連動していて、すべての日本人の動作にデザインが対応している。一方、洋服はカッティングには凝っているけど、基本的に柄は繰り返ししかない。洋服にも着物のように柄の配置で遊ぶということを取り入れていきたいです。
今、衣服に関しては圧倒的に西洋に負けているけど、日本のもののよさってたくさんあると思います。洋服はカッティングして作るので、1着作るのにたくさん無駄な布ができてしまう。
その点、着物は1枚の布で作るから無駄が少ない。それから、天然染料。日本古来の天然染料には、化学染料にはないよさがたくさんあると思います。柿渋染めのジャケットを持っているんですけど、本当にカビが生えないんですよ。
家の湿気でほかの服にカビが生えたときも、そのジャケットだけカビが生えなかった。これからエコロジーの時代だし、こうした日本のもののよさをもっと知ってもらいたいですね。
そのためには、やっぱりものができる過程を知ってもらうことだと思います。今はものがどうやってできるかを知らずに消費していることが多いけど、美意識やセンスは美しいものができる過程を知ることで磨かれていくんじゃないかと思うんです。
だから、僕はお客さんと一緒にものを作っていきたい。こういうものを作ってほしいというお客さんとお互いに分かり合いながら、お客さんを育てたい。そして、こっちも育てられたい。やっぱり僕は職人なので「こんなんができたから着てみろ」っていうよりは、お客さんの要望を聞きたいし、それにどこまで応えられるかっていうのが好き。
そういうことの繰り返しで普遍的なものができるのかなと思います。お客さんのこういうものが欲しいっていう要望と、衝突して、もうこれしかないっていうものができる。その時まで頑張ります。